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 春季キャンプ。

 その年のシーズンへ向けた最後の仕上げとなるキャンプである。春季キャンプでの出来がその選手の今年のシーズンを決めるといっても過言ではない。自然と各選手の集中力も高まるというものだ。

 そして、そのチームにとっては新戦力の加入の時でもある。高卒、大卒、社会人……年齢やポジションは違えども、ルーキーという立場は同じである。

 スターになろうという夢を持つ者、このチームの中でやっていけるのか不安を抱く者、ただただプロという世界に圧倒されている者。抱く思いはそれぞれ違っていても全員に若さと活力が漲っている。

 先輩選手も彼らを見て、負けていられないとばかりに練習に取り組む。

 グラウンドの熱気が高まろうとしている時に、別の意味で高まろうとしている場所があった。


「ちょ、ちょっと二人とも? 落ち着いて、ね?」


 おろおろと慌てた様子でいるのは白石 さゆり(しらいし さゆり)という女子アナである。27歳という絶妙な年齢からくる、大人の女性としての色香と落ち着いた雰囲気はお茶の間でも大人気であり、特に若い男性には強い人気を誇る。

 春季キャンプ二週目という事で各チームのキャンプ地を回り、新加入したルーキーにスポットを当てた取材をしているところである。

 彼女は何を慌てているのか。


「ふっ、お前とは決着をつけようと思っていた、前田!!」


「上等だ友沢っ!! そのすかした面にストレートを叩き込んだらぁ!!」


 カメラの前で年甲斐もなく口げんかを繰り広げる二人のルーキーがいた。

 友沢 亮(ともさわ りょう)と前田 慶次(まえだ けいじ)。二人の高卒ルーキーである。

 二人とも出身は帝王実業高校であり、チームメイトでもある。そして3年の夏の甲子園――最後の大会において、チームを優勝に導いた原動力としてそれなりに後のドラフトを沸かせた結果、猪狩カイザースが二人を獲得する事になったのである。

 友沢は当初、投手としてスカウトから注目を浴びていたが、肘を壊して内野手に転向。その後、内野手の選手層が厚い帝王実業においてスタメンを獲得し、ショートとしてチームに貢献している。打ってよし、走ってよし、守ってよしと走攻守の三拍子が揃い、抜群の野球センスを持っているというのがスカウトの評価である。投手の時よりも評価が高いのは皮肉とも言えるだろうが、そこに本人の血の滲むような努力があるのは言うまでもない。

 慶次は投手である。そしてカイザースの不動のエースである猪狩 守(いかり まもる)の投球フォームを特集した雑誌を購入し、公園で見よう見まねでやってみたら、何と猪狩の決め球でもあるライジングキャノンを投げられるようになってしまったという出鱈目な男である。他にも「怪しい医者の怪しい強化手術を受けた」「巨大な女に魂を売った」などと様々な黒い噂が慶次の周りには流れていたが、どれも噂の域を超えない。

 二人はチームメイトであり、ライバルであった。

 入学時、シニアで既に高い評価を得て、実力で1年の春から一軍に上がっていた友沢。

 ただ野球が上手くなりたいために入学し、2年になるまで2軍で雑用係だった慶次。

 最初はスタートに差がありすぎたが。

 友沢は慶次の秘められた野球センスを早くから見抜き、慶次は友沢に早く追いつこうと朝から晩まで練習に時間を費やした。友沢のコンバートが上手くいったのがセンスのみではないように、慶次がライジングキャノンを投げられるようになったのも運のみのおかげではない。それを投げられる肉体、耐えられる筋肉、それを作り上げたのは慶次の努力であるからだ。

 口ではお互いにどうこう文句を言いながらも、信頼関係を結んでいるのは間違いない。

 が、仲が悪かった。

 プライドが高く、実力もある友沢。負けん気が強く、口が悪い慶次。

 相性は最悪だった。

 今回も原因はそれだった。

 さゆりが友沢に簡単なプロフィールを質問し……


「休みの日ですか? 今は野球の事しか考えていません。だから空いている時間は全て練習に費やしています」


 ……とルーキーらしい答えをした時に。


「お前、一昨日一人でホーミング娘のコンサート行ってたろ? あっ、こいつホーミング娘のCD買うために練習休んでバイトする奴なんですよ!!」


 と慶次が横から口を挟み。

 さゆりが慶次に高校時代のチームメイトの話を質問し……


「みんないい仲間でした。僕ですか? どちらかというと周囲を立てて譲るタイプだったんですが」


 ……と仲間思いな答えをした時に。


「ふっ……倒れた女医に人工呼吸をしたくて周りの仲間達を殴って沈めた男の言葉とは思えないな。こいつは練習後にグラウンドの整備もしないで遊び歩くような無責任な奴です」


 と友沢が後から口を挟む。

 そこからは売り言葉に買い言葉である。


「おいおい……俺に帝王から引き摺り下ろされた男がやけに偉そうじゃねぇか」


「その次の勝負で年下に負けた男ほどじゃない」


「ドラフトは俺のほうが上だったけどな」


「よかったな、俺が肘を壊して。でなければお前は帝王じゃレギュラーにもなれずにここにもいなかった」


「甲子園でも誰かさんがもう少し打って点数取ってくれれば楽に勝てたんだけどなぁ……いやぁ決勝は辛かった」


「打っても打ってもどっかのピッチャーが点を取られたからな。苦しい戦いだった」


「お前合宿中に宿舎抜け出してホーミング娘のコンサート行ったろ? それがヒトラーにばれた時の練習はきつかったぜ?」


「お前が偵察と偽って聖タチバナのキャッチャーをナンパしていたのがばれた時ほどじゃないだろう」


「バイトのために練習サボる奴がチームメイトじゃなぁ」


「加藤先生の妹(看護士)に会うためにわざと怪我する男には言われたくない」


「……野郎」


「……貴様」


 そして最初に戻る。

 どう見ても甲子園を制覇したチームメイトとは思えない。

 さゆりは二人の後で呆れた顔をしている眼鏡をかけたルーキーに声をかけた。


「あ、あの……本当にこれで優勝したんですか?」

 と、疑りながら。


「た、確かに優勝したでやんす……」

 申し訳なさそうな声で眼鏡のルーキーは答えた。

 

 4年後、彼らがカイザース黄金時代を築く事になるとは、誰も思いもしないことだった。

 

 書きかけサクセスとマイライフのコラボ。

 

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